「マルチパーパスツリー」 として幅広い活躍が期待される『モリンガ』

今回は、食用のみならず、生活や地球環境に対しても多くの利用可能性を秘めるモリンガについて、掘り下げていきたいと思います。

 モリンガとは



モリンガ (Moringa oleifera) は、インド北西部原産の落葉樹です。樹高は10〜15mほどになり、やや細めの直立した幹に丸みを帯びた葉を茂らせます。1.5〜2cmほどの可憐な花は白〜ややクリーム色で、枝先に多数見ることができます。
乾燥に強く、生長が速いこと、また栄養価が高いことなどでも注目され、現在ではアフリカや中南米、メキシコ、スリランカ、フィリピン、インドなどで広く栽培されています。

モリンガは、インド伝承医学 「アーユルヴェーダ」 やイスラム圏の伝統医学 「ユナニ医学」 においてメディカルハーブとして利用されるなど長い歴史をもち、その歴史の深さから、「マルンガイ」「ベンツリー」 など、言語によって異なる呼び名が100種類以上も存在します。
なお、英語圏では、“Drumstick tree(ドラムスティックツリー;30〜60cmにもなる長細い鞘状の実がドラムのスティックに似ていることから)”、または、“Ben oil tree(ベンオイルツリー;種子から採れるオイルから)”、さらに “Horseradish tree(ホースラディッシュツリー;辛味のある根が西洋ワサビの代用になることから)” などと呼ばれますが、日本ではこの辛味に着目し、和名を 「ワサビノキ」 としたようです。


 モリンガの栄養成分



モリンガは、葉、花、果実、種子、根、樹皮と、樹木の全ての部分に利用価値があるとされています。特に葉には多種多様な栄養素が含まれ、ビタミンAはニンジンの4倍、ビタミンCはオレンジの7倍、カルシウムはミルクの4倍、タンパク質はミルクの2倍、カリウムはバナナの3倍にもなります。

<モリンガの栄養>
以下に、モリンガの実、生葉、葉粉末の、可食部100gあたりに含有する成分を示します。
生葉 葉粉末
水分(%) 86.9 75.0 7.5
熱量 26.0 92.0 205.0
タンパク質(g) 2.5 6.7 27.1
脂質(g) 0.1 1.7 2.3
炭水化物(g) 3.7 13.4 38.2
食物繊維(g) 4.8 0.9 19.2
ミネラル(g) 2.0 2.3 -
カルシウム(mg) 30.0 440.0 2.003
マグネシウム(mg) 24.0 24.0 368.0
リン(mg) 110.0 70.0 204.0
カリウム(mg) 259.0 259.0 1.324
銅(mg) 3.1 1.1 0.57
鉄(mg) 5.3 7.0 28.2
硫黄(mg) 137.0 137.0 870.0
シュウ酸(mg) 10.0 101.0 1.6%
ビタミンA(ベータカロテン)(mg) 0.11 6.8 16.3
ビタミンB(コリン)(mg) 423.0 423.0 -
ビタミンB1(チアミン)(mg) 0.05 0.21 2.64
ビタミンB2(リボフラビン)(mg) 0.07 0.05 20.5
ビタミンB3(ニコチン酸)(mg) 0.2 0.8 8.2
ビタミンC(アスコルビン酸)(mg) 120.0 220.0 17.3
ビタミンE(酢酸トコフェロール)(mg) - - 113.0
アルギニン(g/16gN) 3.6 6.0 1.33%
ヒスチジン(g/16gN) 1.1 2.1 0.61%
リジン(g/16gN) 1.5 4.3 1.32%
トリプトファン(g/16gN) 0.8 1.9 0.43%
フェニルアラニン(g/16gN) 4.3 6.4 1.39%
メチオニン(g/16gN) 1.4 2.0 0.35%
スレオニン(g/16gN) 3.9 4.9 1.19%
ロイシン(g/16gN) 6.5 9.3 1.95%
イソロイシン(g/16gN) 4.4 6.3 0.83%
バリン(g/16gN) 5.4 7.1 1.06%
(Martin L.Price 1985 THE MORINGA TREE)

○実に含まれるオイル「ベンオイル」
モリンガの種子からは、総重量の30〜40%を占める良質のオイル(ベンオイル)が採取できます。
ベンオイルは、不飽和脂肪酸のオレイン酸(約70%)の他、飽和脂肪酸のベヘン酸(約6%)、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸などを含有しており、古代ローマやギリシャ、エジプト文明では香水の原料やスキンケア、薬用油として利用されていましたが、19世紀頃に西インドからヨーロッパへと輸出されることで広く知られるようになりました。
現在では、甘く、ベトつきがなく、酸化しにくいという特徴から、食用油や精密機械の潤滑油、香水原料、ヘアケアなどの化粧品原料にと、多様な製品に応用されています。また、バイオ燃料としての利用にも関心が高まっています。


 モリンガの使用部位と活用方法



伝統的にはメディカルハーブとして民間療法的に活用されてきたモリンガですが、現在では食品としての利用を中心に幅広く活用されているようです。

○伝統的な活用方法
地域(国) 使用部位 活用方法
東アフリカ 根皮(温水抽出) 月経促進、利尿剤、興奮剤
インド 乾燥果実(温水抽出) 頭痛、めまい
乾燥幹皮 頭痛
乾燥花(温水抽出) 興奮剤、催淫剤(アーユルヴェーダ)
乾燥果実、葉(温水抽出) 赤痢、下痢
乾燥根皮 受胎調整
樹皮液汁 急性の腹痛
葉液汁+ハチミツ 結膜炎
葉(粉末) 喘息
乾燥根、幹 リウマチの痛みの緩和(外用)
ナイジェリア 根(温水抽出) 鎮痛、低血圧、鎮静
乾燥根(温水抽出) 関節炎
サウジアラビア 乾燥実(温水抽出) 糖尿病、腹水、浮腫、脾臓肥大、潰瘍、腹部腫瘍、麻痺
セネガル 植物全体(乾燥) 捻挫、頭痛、リウマチ、関節炎
米国 利尿剤
西インド 花(浸出液) 咳止め


○現在の活用方法
現在は、食品(葉、ハチミツ)、家畜の飼料(葉、オイル抽出後の種子)、青色染色 (木部)、肥料(オイル抽出後の種子)、緑肥(葉)、樹脂(幹)、民間療法(植物全ての部位)など、実に多岐に渡って活用されています(※カッコ内は使用部位)。
さらに、驚くべきことに、モリンガの種子の抽出物には「水を浄化する」働きが認められており、実際にスーダンの農村地区などでは、ナイル川の濁水を飲み水とするために、モリンガの種子の抽出物で水が浄化されています。
加えて、乾燥に強く豊富な栄養素を含むというモリンガの特性に着目し、貧困地域での栄養状態の改善に役立てられているということも、大変興味深い事実と言えるでしょう。


 モリンガについての研究



上述のような働きや特性を利用して、モリンガは多方面で利用が進められ、また研究も進んできています。

○貧困地域の栄養改善
キリスト教系NGO “World Vision” は、5歳以下の子供の36%が栄養失調で苦しむというモーリタニアでモリンガの栽培および利用方法の指導を行なっており、2003年の資料では、モリンガの葉の粉末を妊婦と乳幼児に与えたところ、貧血の改善がみられたことが報告されています。
さらに、同じくキリスト教系NGO “Church World Service” のヘルスワーカーグループでは、ビタミンAの補給が低体重新生児の死亡率減少に有効であることから、ビタミンAを豊富に含むモリンガの葉に着目。貧困地域の乳児や妊婦、授乳婦の、栄養失調の治療と予防のために、通常利用される粉ミルクや砂糖、植物油、ピーナッツバターの代替品として、モリンガを使用しています。

加えて、モリンガを毎日摂取しても副作用の報告はないどころか、サナダムシ(寄生虫)感染の治癒、糖尿病や高血圧のコントロールに役立つという予想外の結果に、モリンガの健康効果に対する期待は一層高まっています。
ただし、栄養状態の改善プログラムにモリンガを組み込むことには、科学的な検証の不足やモリンガの適切な加工方法の同定、資金面など、多くの課題が残されています。 また、モリンガが自生している多くの貧困地域では、モリンガを食品として利用することが知られていないため、現在、NPO・NGO団体による現地の人々へのモリンガの栽培および利用方法の指導など、モリンガの周知活動も行なわれています。

モリンガの知名度がより向上し、こうした地域の健康状態の改善や、産業の活性化に繋がることが望まれます。
(COMBATING MALNUTRITION WITH MORINGA, Fuglie L. J. Church World Service)
(BMJ. 2003 Aug 2;327(7409):254. PMID: 1289693)
(MAURITANIA: World Vision promotes Moringa to combat malnutrition,IRIN(humanitarian news and analysis) 2003)
(Ross, Ivan A. 1999-2000 Medicinal Plants of the World)
(Tree of Life Journal 2005, 1:5)

○水の浄化
前述のとおり、モリンガは水を浄化するという驚くべきパワーを持ちますが、そのメカニズムについても研究が進められています。
モリンガの種子はタンパク質を40%以上含みますが、その中のカチオン性タンパク質(プラスに帯電しているタンパク質)は凝固剤のような役割を果たし、濁水の中の浮遊物質や微生物と結合して凝固した塊が沈殿していくので、結果として水を浄化させることになります。
現在、このタンパク質は「濁水浄化タンパク質」として、飲料水を確保する必要がある発展途上国のみならず、遺伝子操作によって大量生産が可能になれば先進国での水質改善にも大いに貢献すると考えられています。
また、モリンガの種子には、微生物の細胞壁を破壊または微生物の酵素活性を阻害する抗菌活性物質が含まれるため、直接的な抗菌作用が期待できます。
加えて、モリンガの種子の水溶液に含まれる低分子有機酸(アミノ酸)は、生理活性のある吸着物質として働き、水性媒体からカドミニウムを排除することが示唆されています。 このように、浮遊物質や微生物に対する凝固・沈殿作用、直接的な殺菌作用に加え、有害な重金属を除去する吸着剤としての作用もあることから、モリンガの「地球に優しい」水質改善への応用が期待されます。
(Curr Protoc Microbiol. 2010 Feb;Chapter 1:Unit1G.2. PMID: 20131221)
(Biotechnol Bioeng. 2003 Jan 5;81(1):13-20. PMID: 12432576)
(Water Res. 2005 Jun;39(11):2338-44. PMID: 15921719)
(PHYTOTHERAPY RESEARCH Phytother. Res. 21, 1725 (2007) PMID: 17089328)

また、モリンガの活性成分の有効性についても調べられています。

○抗菌活性
多剤耐性菌が世界中で問題になっている現代ですが、感染症の代替治療として薬用植物の抗菌活性が注目され、モリンガもその1つとして研究されています。
既に水の浄化における研究でモリンガの殺菌作用をご紹介しましたが、主な食中毒原因菌である4種の細菌「コレラ:Vibrio cholerae」、「大腸菌群:Escherichia coli」、「黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)」、「サルモネラ(Salmonella Enteritidis)」に対する抗菌活性を調べた試験があります。
この試験では、モリンガの種子の水およびエタノール抽出物に、グラム陰性桿菌であるサルモネラには活性は認められなかったものの、コレラ、大腸菌、黄色ブドウ球菌の3種の細菌に対し、抗菌作用があることが確認されました。
(Rev Inst Med Trop Sao Paulo. 2010 May-Jun;52(3):129-32. PMID: 20602021)
(Antimicrob Agents Chemother. 2005 Sep;49(9):3847-57. PMID: 16127062)

なお、モリンガに含まれるフィトケミカル(植物が作り出す物質)のイソチオシアネート類に、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因となり、胃がんの危険因子ともいわれているピロリ菌(Helicobactor pylori)に対する高い活性が認められています。特に、4-(L-rhamnopyranosyloxy)benzyl isothiocyanate)などのチオシアネート類に対し、ピロリ菌の感受性が高いことが明らかになっています。
現在、ピロリ菌に感染している被験者に対し、同様の結果が得られるかどうか研究が進められており、予備試験ではイソチオシアネートの有効性が確認されています。
(Tree For Life Journal 2005)
(Dig Dis Sci. 2004 Aug;49(7-8):1088-90. PMID: 15387326)

○抗炎症作用
モリンガには、炎症を抑える働きも期待できるようです。
関節炎モデルのラットを用いた研究では、モリンガの根および葉、またはその両方のメタノール抽出液を与え、熱性痛覚過敏と機械的アロディニア (機械的刺激に対して痛みを感じる病態) を評価したところ、インドメタシン (非ステロイド性鎮痛剤) と同等に作用することが示されています。
これらの抽出液は、それぞれ単独投与より、混合投与によって高い鎮痛作用が現れることが確認されています。
(Zhong Xi Yi Jie He Xue Bao. 2011 Feb;9(2):216-22. PMID: 21288459)

また、モリンガの種子由来のβ-シトステロールには、喘息モデル動物での気道の炎症を抑える働きが確認されています。
卵白アルブミン誘発性の喘息モデルのモルモットに、あらかじめβ-シトステロールを投与しておいたところ、対照群のモルモットと同程度の値まで換気量が増加し、また呼吸数が減少しました。
さらに、血中と気管支肺胞洗浄液中の好酸球および好中球の細胞数を減少させることも確認されています。
β-シトステロールは、血清と気管支肺胞洗浄液中のIL-6を除くサイトカイン濃度(TNFα、IL-4、IL-5)を低下させ、気道の炎症を抑えることが認められました。
この試験では、β-シトステロールが、免疫系細胞の反応を抑制してTh2サイトカインの放出・合成を阻害することで、喘息に対して薬理作用を持つ可能性が示唆されています。
(Eur J Pharmacol. 2011 Jan 10;650(1):458-64. Epub 2010 Oct 12. PMID: 20946894)

○がん予防に対する働き
モリンガの活性成分であるイソチオシアネート[4-(4'-O-acetyl-alpha-L-rhamnopyranosyloxy)benzyl isothiocyanate]と関連化合物であるニアジミシン(niazimicin)は、リンパ芽球様細胞(バーキットリンパ腫)において、ホルボールエステル(TPA)誘発性EBウィルスを阻害することが明らかになっています。また、ニアジミシンは、腫瘍モデルマウスで、腫瘍の増殖を抑える働きが確認されました。
最近の研究では、モリンガの種子エキスには、発がん物質に対して予防的な働きがあり、皮膚がんを予防できるのではないかと考えられています。
モリンガの腫瘍に対する働きは、民間療法家の間では評価されているものの、ヒトに対する評価を実施した研究がないことから、今後の生物医学的な裏付けの検証が待たれます。
(Asian Pac J Cancer Prev. 2003 Apr-Jun;4(2):131-9. PMID: 1287562)

その他、血圧の安定や血圧降下作用、利尿作用、コレステロール低下作用、カルシウムチャネル阻害による抗けいれん作用、抗潰瘍作用、肝保護活性、抗真菌活性などを調べた実験も行なわれており、いずれからも大変興味深い結果が得られていますが、これらの研究についてもまだヒトを対象とした臨床試験による検証はされていません。
今後の臨床試験の実施と、有益な結果が得られることを期待したいものです。


 まとめ



栄養状態の改善や水の浄化など、私たちの健康から地球環境にまで貢献するモリンガ。そのあまりにも幅広い利用価値には驚かされるばかりです。
「生命の木」「奇跡の木」 とも呼ばれるモリンガは、まさに名前にふさわしいマルチパーパスツリー。さらに新たな利用価値が見出される可能性もありそうです。今後の研究の発展を楽しみに見守りたいと思います。

<参考>

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