予防とアンチエイジングに対する働きが期待される『L-カルノシン』

今回は、老化に関係する働きから多角的に研究が進められつつあるL-カルノシンについて、掘り下げていきたいと思います。

 L-カルノシンとは



L-カルノシン(β-アラニル-L-ヒスチジン)は、アラニン、ヒスチジンの2つのアミノ酸が結合したジペプチドです。生体内では脳や筋肉、骨格筋、神経組織、水晶体などに高濃度で存在します。
神経細胞など寿命の長い細胞内に多く存在し、筋肉中のL-カルノシン濃度は筋肉細胞の寿命と関係しています。

L-カルノシンの生体内での働きはここ20年ほどで明らかにされてきましたが、その生理機能が示されるにつれ、老化によって引き起こされる病気の予防や、アンチエイジングとの関連性に注目が集まっています。


 抗酸化作用・抗グリケーション作用をもつL-カルノシン



ヒトの体内で、老化の過程で生じる「酸化」と「グリケーション(糖化)」という化学反応は、実は様々な疾患の原因となることがわかっています。
多くの研究で、L-カルノシンにはこれらの化学反応に対して抗酸化作用、抗グリケーション作用があることが確認されています。

<酸化>
体内では酸素が関係する様々な化学反応が起き、その過程で活性酸素種が発生します。発生した活性酸素種は通常、グルタチオン、ビタミンE、カロテノイド、ビタミンCなどの抗酸化物質や、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼのような抗酸化酵素によって、水や酸素などの無害な物質へと変えられます。
しかしながら、疾患、加齢、代謝による増加、過剰な酸化ストレスなどの影響で、処理能力以上に活性酸素種が増えてしまった場合、これらは細胞や組織にダメージを与えることになります。
(Curr Alzheimer Res. 2008 December ; 5(6): 525-532.)

○L-カルノシンの抗酸化作用
L-カルノシンは、フリーラジカル、アルデヒドやカルボニルプロテインなどに対する抗酸化作用があります。
L-カルノシンは筋肉の疲労回復を早めることが知られていますが、これはL-カルノシンの抗酸化作用によるものです。筋肉細胞での代謝によって発生する活性酸素種の働きを抑える、筋肉の酸性度を緩和する、細胞内の筋小胞体の膜の脂質の過酸化を防ぐといった働きが確認されています。

<グリケーション>
酸化に加え、疾患や老化に密接に関係するのがグリケーションです。発見者の名前に由来して「メイラード反応」とも呼ばれます。
酵素を介さずにタンパク質やアミノ酸と糖が結合する反応のことをいい、味噌や醤油、ウイスキーや黒ビールなどの色や風味、トーストの香ばしい香りと味など、食品の保存中や加工段階で起こることが知られています。
グリケーションとは、可逆的な前期反応と、前期反応で生成された物質の不可逆的な後期反応(酸化、脱水、縮合など)によって、糖化最終産物(Advanced glycation end products:AGEs)が作られる過程を指します。 グリケーションの結果できたAGEsには、蛍光や褐色性を帯びる、架橋構造を持つといった特徴をもつものもあり、これらの特徴は検査の指標としても利用されています。
AGEsの1つであるペントジシンは、糖尿病患者、腎疾患患者の血中に多く、腎機能を調べる指標とされます。
また、前期反応でできるHbA1c(ヘモグロビンA1c)は、血中のヘモグロビンと糖が結合したもので、糖尿病の診断や血糖値管理の指標とされています。
AGEsは、その生成過程でタンパク質や脂質の酸化を引き起こしたり、細胞膜のAGEs受容体を介して活性酸素種の生成を増加させ、様々な遺伝子発現に影響を与えたりするなど、周囲のタンパク質や組織の機能や構造に有害な作用をもたらし、様々な病気の進行に関係することが確認されています。
※グリケーションは、脂質と糖の間でも起こり、ALEs(Advanced lipoxidation end products:脂質過酸化最終産物)という物質も作られることが知られています。

○L-カルノシンはグリケーションを防ぐ(抗グリケーション)
タンパク質やアミノ酸のグリケーションは、リジンとプロリンが並んだ位置にアルデヒドが結合することで起こりやすく、L-カルノシンはこの2つのアミノ酸の並び構造と似ているため、対象物と競合し、グリケーションを防ぐと考えられています。
(Biochemistry (Moscow), Vol. 65, No. 7, 2000, pp. 751-756.)

○グリケーションが関係する病気

・糖尿病
糖尿病に起因する合併症は、高血糖によるタンパク質のグリケーションとAGEsが密接に関係しています。
糖尿病性腎症では、糸球体でのAGEsの蓄積、AGEs受容体を介した反応などによって、糸球体の細胞や尿細管の細胞にも障害が生じ、包括的に腎臓の機能が低下していきます。
糖尿病性網膜症では、AGEsが網膜の細胞の機能に影響し、細胞死、血管閉塞、血管新生が起こります。
糖尿病患者に白内障が起こりやすいのは、水晶体のタンパク質のグリケーションにより変性が進みやすくなるからと考えられています。
(日腎会誌 2002;44(4);373-379)
(北陸大学 紀要 第28号(2004) PP.33〜48)
(東腎協 1999年7月25日 No.129)

・アルツハイマー病
アルツハイマー病の原因は未だ不明ですが、現段階では、脳の神経細胞で作られるタンパク質断片の一部であるアミロイドβタンパク(Aβ)の、凝集と蓄積が関係しているとされています。元来Aβは凝集しやすく、蓄積すると脳内に老人斑が作られますが、これが神経細胞を死滅させ、アルツハイマー病が発病すると考えられているのです。
アルツハイマー病の人の老人斑では、健康なヒトの3倍ものAGEsが確認され、さらに神経原繊維変化が認められ、神経細胞が死滅しています。
また、アルツハイマー病の初期段階では、脳内でAGEsの合成が起こっていることも報告されています。
(J Alzheimers Dis. 2007 May;11(2):229-40.)
(Curr Alzheimer Res. 2008 December ; 5(6): 525-532.)
(Ann N Y Acad Sci. 2005 Jun;1043:545-52.)

・その他
血中の脂質輸送タンパク(リポタンパク;LDL)でもグリケーションは起こっています。
グリケーションにより糖化したLDLは、構造が変化した変性LDLであるため代謝されにくく、動脈の内膜に滞留、蓄積してアテロームを形成し、動脈硬化を促進します。
また、血中でAGEsが作られる過程で発生する活性酸素種は、血管内皮を障害し、動脈硬化の原因となります。 その他、培養したすい臓がん細胞はAGEsの濃度に依存して増殖が促進されることや、特定のAGEsが黒色腫細胞の増殖を促すことも確認されています。
(金沢大学十全医学会雑誌 105(1) pp.162-169 1996-02-01)
(J Invest Dermatol. 2004 Feb;122(2):461-7.)

グリケーションによってAGEsが作られるまでには長い時間がかかります。さらに、作られたAGEsはその構造から分解されにくいため、次第に蓄積され、やがて様々な障害を引き起こしていくのです。


 L-カルノシンの医学的応用



上述のように、多くの病気の進行に関与する酸化やグリケーションに対し、抗酸化作用や抗グリケーション作用をもつL-カルノシンは、それらの予防や治療への応用が期待されています。

○脳
<脳梗塞時の脳細胞保護>
脳梗塞では酸化ストレスが生じ、神経細胞にダメージを起こします。
これに対し、局所的脳虚血(脳梗塞モデル)ラットにおいて、L-カルノシンは脳細胞のダメージを防ぎ、神経細胞死を抑制することが確認されています。
この試験では、脳を虚血状態にしたラットに虚血後からカルノシンを投与すると、虚血後2時間までであれば梗塞範囲が減少しました。また、梗塞を起こす30分前と、梗塞後6時間おきにカルノシンを24時間まで投与した場合でも、対照群より梗塞部位が減少しました。
また、梗塞により脳内のグルタチオン濃度は著に減少しますが、カルノシンを投与するとグルタチオン濃度が維持され、さらに活性酸素種が付着した細胞数も減ります。
これらのことからL-カルノシンは、梗塞による酸化ストレスを弱め、神経細胞を保護する働きがあると考えられます。
また、虚血後2時間までという時間的制約は示されましたが、L-カルノシンの投与で梗塞範囲を減少させられるということは、L-カルノシンが梗塞後の治療にも応用できる可能性を示しています。
なお、この試験は通常よりもはるかに多いL-カルノシンをラットの腹腔内に投与する形で行なわれましたが、血中投与などでL-カルノシンがヒトの脳梗塞治療に役立てられるのではないかと考えられています。
(Stroke. 2007 Nov;38(11):3023-31. Epub 2007 Oct 4.)

<アルツハイマー病>
アルツハイマー病では、脳内で作られる活性酸素種、活性窒素種、銅、亜鉛イオン、AGEs、活性アルデヒド、タンパク架橋、タンパク分解機能不全など、あらゆる物質が病気の要因になり得るとされています。
脳の嗅葉には、もともと亜鉛とL-カルノシンが多く存在していますが、アルツハイマーの初期段階では嗅葉に亜鉛イオンが多く存在し、脳脊髄液ではL-カルノシンの関連成分であるホモカルノシンが減少しています。
また、血漿中のL-カルノシンも、健康な人よりも顕著に少なくなっていることが報告されています。
L-カルノシンは亜鉛イオンとキレート結合することで、亜鉛イオンが原因となって起きるアミロイドβタンパク(Aβ)の凝集・蓄積と酸化を防ぐことができます。
また、L-カルノシンそのものがフリーラジカル、ヒドロキシラジカル、活性アルデヒドによる酸化を防ぎます。
また、Aβのグリケーションを防ぎ、その結果AGEsの生成をも防ぐ可能性が期待できます。
さらに、インビトロ試験では、酸化タンパク加水分解酵素の発現や、老化繊維芽細胞でのタンパク分解酵素の働きを間接的に高めることも確認されていることから、アルツハイマー病を含め、その他の神経変性が原因となる病気に対する働きが期待されています。
(Amino Acids. 2007 Feb;32(2):213-24. Epub 2006 Oct 10.)
(J Alzheimers Dis. 2007 May;11(2):229-40.)
(Rejuvenation Res. 2004 Winter;7(4):253-5.)

○心臓
L-カルノシンは心筋細胞内で抗酸化作用を示し、心筋細胞を保護する働きが認められています。その一例として、抗悪性腫瘍薬の1つであるドキソルビシンによる心毒性が、L-カルノシンによって保護されることが示されています。
動物を用いた実験では、ドキソルビシン投与前後1週間とドキソルビシン投与中にL-カルノシンを投与すると、心筋細胞死および心筋の繊維化が抑制され、心筋細胞が維持されることが確認されています。
これにより、ドキソルビシンとカルノシンの同時摂取は心機能全般を維持すると言えそうです。
(Acta Pol Pharm. 2004 Dec;61 Suppl:56-8.)
(Pol J Pharmacol. 2003 Nov-Dec;55(6):1079-87.)

○胃
日本では1994年に、L-カルノシンの抗酸化作用、損傷部位の改善作用に着目して、胃潰瘍の治療薬としてL-カルノシンと亜鉛を結合させたL-カルノシン亜鉛錯体(ポラプレジンク)が開発・発売されました。
亜鉛と結合したL-カルノシンは胃粘膜損傷部位に長時間付着・浸透することが可能で、L-カルノシン亜鉛錯体には潰瘍に対する直接治癒作用、抗酸化作用、膜安定化作用が認められています。
また、胃潰瘍患者での臨床試験において、L-カルノシン亜鉛錯体での副作用は一例も認められず、また潰瘍の8週間後の治癒率は64.5%と、優れた作用が発揮されています。
さらに、慢性胃潰瘍の多くに関与するヘリコバクター・ピロリの増殖抑制作用も認められています。
(ファルマシア 31(6) pp.613-615 19950601)

○糖尿病
ドイツの研究で、糖尿病性腎症を発症した患者にはL-カルノシン分解酵素を活性化する遺伝子型のある人が多く、L-カルノシン分解酵素が糖尿病性腎症のリスク要因となることが確認されています。
これにより、L-カルノシンが糖尿病の改善に役立つという仮説の下、2型糖尿病ラットにL-カルノシンを投与したところ、すい臓β細胞が増加し、糖代謝の改善が示されました。
(Diabetes. 2007 Oct;56(10):2425-32. Epub 2007 Jun 29.)


 まとめ



私たちの体内で重要な役割を果たしているL-カルノシン。
血中の酵素で分解されてしまうため、L-カルノシンの補給が病気の予防や治療に直結するとは言えませんが、定期的にある程度の量を摂取すれば、何らかの働きは期待できそうです。
現在、L-カルノシンの抗酸化作用を維持しつつ、かつ血中に存在する酵素によって分解されにくいL-カルノシン誘導体の開発も進められています。
今後、食品や医療以外の、新たな分野での研究展開にも期待が高まります。


<参考>

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